妻のDVの真相:誰もが驚く支配と虐待の理屈

DV相談窓口を紹介した前回の記事で書いたとおり、DV全体の被害者の1/4は男性、夫です。現在、警察庁が相談を受けたDV事件年間8万件強のうち、約2万件では男性が被害を受けているということです。これは決して少ない数ではありません。

 

どんな妻が、どんなDVを行うのか、そして、DVに走る妻の理屈について解説します。

 

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存在を隠されるDV妻/苦しむ被害夫

内閣府の調査*によると、女性の4人に1人、男性の5人に1人が「パートナーからの被害体験がある」と答えています。なのに報じられるDVはほとんどDV夫によるものばかり。妻によるDVは明らかにならないばかりか、その存在すら定かではありません。

*内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査報告書」(令和3年3月)[PDF]
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r02danjokan-gaiyo.pdf

 

DV加害者=男性というジェンダー・バイアス

DV妻の存在が明らかにされない理由のひとつに、未だDVが男性の問題ととらえられる風潮があります。
DVが社会問題化されはじめた頃、男性加害者・女性被害者の図式がほとんどでした。そのため、DV防止法は女性保護に配慮された内容になっており、男性が受けられるサポートはほぼありません。

 

また、DV加害男性の暴力を肯定する心理には、社会的な「男らしさ・女らしさ」への固定的な観念(ジェンダー・バイアス)が関わっていることから、DVが「男性らしさの病」「男性らしさ暴力」と呼ばれることがあります。これも「DV=男性による暴力」という誤解を招く一因かもしれません。

 

男の癖に「妻からDVを受けている」なんて恥ずかしい

女性が男性のDV被害を訴えるより、男性が女性からのDV被害を訴えることは容易ではありません。これもDVの男性被害者の存在が明らかにならない理由といえそうです。

 

また前出の内閣府の調査では、配偶者からDV被害を受けた男性の6割はどこにも相談していないことが明らかにされています。「バカにされる」という世間体や「男は強くて当たり前」という男らしさの弊害、加害者を正当化したジェンダー・バイアスが、被害男性の障害になっているのです。

 

DV被害の相談しなかった理由について男性の7割が「相談するほどのことではない」と答えているのは、その表れといえるでしょう。また2位の「相談してもむだ」からは、男性被害者のあきらめや落胆が見てとれます。

 

被害男性のケアやサポートが少ない

DVの男性被害者に解決手段が乏しいことも、DV妻にとってはいい隠れ蓑でしょう。
被害女性には、相談やサポートを行う女性センターやシェルターが各地にあります。「女性のための相談」は多いのですが、男性被害者が相談していいのかわかりません。避難先となる公的機関となれば皆無ではないでしょうか。男性は一人で悩み、自主避難を強いられます。


仮にDV被害男性が「自主避難」できた場合、かなり正式な手順を踏まないと、被害者であっても婚姻費用の負担を強いられ、また、調停や裁判といった法的な場でも、男性のDV被害は理解されにくいのが現状です。加害者である妻に悪者にされてしまうケースすらあります。

 

DVの形態:5つのタイプ

DVの形態は大きく分けて、①身体的DV②精神的DV③経済的DV④社会的DV⑤性的DVの5つタイプがあります。

1. 身体的DV(身体的暴力)

妻による身体的暴力は、想像以上に多発しています。2021年3月、娘への虐待容疑で逮捕された元関脇の妻による夫へのDVが報じられ、4月には釧路市で夫への暴力をくり返していた30代のDV妻が逮捕されました。

また、女性は物を投げつける、物で叩くなど、武器や道具を使うこともあります。いずれにせよ、相手より優位な立場であることを身体性によって表現することが目的です。次のように、DV夫とは異なる形で行われることもあります。

 

・眠らせない(暴言や詰問を続けるなどで)
・ケガや病気のとき病院へ行かせない
・看病をしない
・高いところから突き落とす、あるいは突き落とすふりをする
・自動車の運転中に大声でどなったり脅す
・飲酒や食べたくない食事を強要する
・熱湯や冷水を浴びせる
・浴室やトイレの使用制限
・睡眠中の攻撃(首を絞める、息を止めるなど)

 

家庭はくつろげない場所となり、自分の居場所を失います。いつ始まるかもしれない攻撃に怯え、戦々恐々と送る毎日になります。

 

2. 精神的DV(心理的攻撃)

言葉や行動によって、精神的に追い詰めたり、ダメージを負わせるDVです。威嚇する(大声で怒鳴るなど)、脅かす、見下す、無視する、相手が嫌がること・悲しむことをわざと行うなど、パワハラやモラハラも含まれます。

 

・家事や育児が下手だと執拗に責め、自分のやり方を強要する
・家族・親族間で仲間はずれにする
・大切にしているものを捨てる・壊す・売り払う
・記念日プレゼントやイベントへの暴言や破壊
・自傷行為を見せつけたり、「死んでやる」と脅す
・「ハゲ」「臭い」「甲斐性なし」「役立たず」などとなじる
・育成歴や実家、職業や勤務先、交友関係を見下し、貶す
・子どもに悪口を吹き込む、子どもに悪口を言わせる

 

精神的なダメージは人を無力化します。思考停止に陥ったり、生きる活力や希望を失って自暴自棄になる人も少なくありません。

 

3. 経済的DV(経済的圧迫)

単に金銭感覚や生活費の負担の問題ではなく、経済的に余裕があってもパートナーの経済性を損なわせる行為はDVと考えられます。

 

・家計を明らかにしない
・婚前からの財産や預貯金を提供させようとする
・現金やクレジットカードを取り上げる
・仕事や営業を妨害する
・住宅や車など相談なく大きな買い物をする
・借りたお金を返さない、借金を負わせる
・隠れて財産を持ち出す

 

不利益を被らせて辱めることで、相手の自由や可能性を奪って縛りつけ、搾取します。やがてマインドコントロールされた夫は「自分は妻に服従しなければならない」と、信じるようになります。

 

4. 社会的DV(行動の制限)

パートナーの親族や友人、仕事や趣味の仲間など、人間関係を断絶させて、社会から隔離しようとすることもDVとみなされます。

 

・パートナーの社会生活を妨害する
・装うことを制限される、外出着を汚したり、破ったりする
・実家や友人との交流を断らせる
・頻繁なSNS・電話・メールで、外出や行動を監視する
・カウンセリングや相談を受けさせない
・送別会や打ち上げなど職場でのイベントに参加させない
・出張や赴任先に行かせない、断るように強要する

 

「自分のパートナー」であることだけを求め、それ以外の人間関係を認めません。被害妄想的に浮気を疑ったり、過剰な嫉妬心から「外(会社)に逃げるなんてズルい」と仕事中ですら束縛しようとします。

 

5. 性的DV(性的強要)

受け入れることを強要するのがDVであるように、受け入れないことを強要するのもDVといえるでしょう。

 

・妊娠のための性行為を強要する
・不妊治療について話し合わず「夫の役目だから」と従わせる
・性生活についての話し合いを拒否する
・一方的にセックスやスキンシップを拒絶する、あるいは過剰に求める
・セックスやスキンシップしたい気持ちを理解しない、軽蔑する
・不倫、あるいはほかの男性との性関係を認めさせようとする
・「したいなら、よそでしてきて」と言う

 

パートナーと仲良くしたい、ふれあいたいという気持ちを一方的に拒絶されれば、自分の存在意義を否定されますし、プライドは踏みにじられます。その傷は決して浅くはありません。

 

DVを正当化する6つの理屈

誰でも「暴力は悪いこと」と当然わかっています。DV加害者ですらわかっています。にもかかわらず、「この暴力には正当性がある」と主張し、暴力への「理解を求める」のです。

 

そんな理屈を聞いているうちに、被害者は頭がおかしくなってきます。判断力が損なわれる=マインドコントロールされてしまうのです。
この正当化のパターンはいくつかあります。ここでは、DV妻の理屈の6つのパターンを紹介します。

 

1. フィフティ・フィフティ

「アナタだってこうじゃない?」

 

暴力は、ささいなことがきっかけでエスカレートした結果であり、責任は双方にあるフィフティ・フィフティだと主張します。
「たしかにワタシはやりすぎたかもしれない、でもきっかけを作ったのはアナタでしょ、応戦したアナタも悪いでしょ」と「ケンカ両成敗」にもっていくのです。
DV妻の理屈にモヤモヤしながらも、夫は「自分が悪者になればいい」ということを学習していきます。

 

2. 甘え

「ワタシ、どうかしてたの」

 

お酒を飲みすぎて、仕事や家事・育児が忙しくて、ムシャクシャして、〇〇がショックで気が動転してといった外部要因を引き合いに出して、「いつもの自分ではなかった。どうすることもできなかった」と自己責任を回避します。
それらの外部要因さえなければ、DVは「いつでも止められるし、くり返されることはない」のだから、暴力を「問題はない」と正当化します。
DV妻だけでなく、周囲もとかく「ちょっぴり行き過ぎた妻の甘えやワガママを許す物わかりのいい夫」を求めがちで、甘えを許さないと「器の小さい男」と筋違いの非難を受けることもあります。

 

3. うちの方針

「これがうちのやり方だから」

 

よそとは違うけど、これがうちのコミュニケーション、愛情表現だと主張します。暴力は、ほかでもない愛する家族、夫、パートナーにだからこそ言える(できる)ことで、特殊な関係性だからこそ許されるべきだし、愛しているなら認めるべきだと説得します。ほとんど妻のマイルールの押しつけですが、この理屈が通らないと、婚前の言動や約束などを持ち出して「嘘つき」と非難することもあります。
うちの方針は、DV妻にとって「他人の家に口を挟むな」と外部からの批判や介入する第三者を遠ざける格好の武器にもなります。

 

4. 地雷

「ワタシが悪いっていうの!」

 

「たいへんだったら、こうしてみない?」といったごく普通の会話の端を切り取って誤解・曲解し、「何よ、ワタシのやり方がマズイっていうの!」と炎上。何かがDV妻の劣等感やフラストレーション、怒りの感情を刺激したことで逆ギレするパターンです。
「ワタシだってお金をかければそのくらいできるわ。できないのはアナタの稼ぎが少ないせいよ!」と責められることに。地雷はどこにあるかまったくわかりません。くり返されるうちに夫は緊張状態が続き、家庭でリラックスできなくなります。

 

5. 愛の鞭

「ここでワタシが正さなければ」

 

間違ったこと、失礼なことをしたのは相手であり、自分はそれを正すために指導しただけの「正しい暴力」だと主張します。自分こそが、この家を正しく治める支配者であり、暴力は、家族をまとめる、養うなど自分の役目に則った行動で規範を示した結果に過ぎないというわけです。
逆に、自分が今指導しなければ相手が恥をかく、それを未然に防いだとすら考えているでしょう。
DV妻は愛の鞭で「躾なのだから、口でわからなければ手を上げてもいい」と正当化するだけでなく、「男たるもの鉄拳制裁は当然」というジェンダー・バイアスを「男ならされて当然」と悪用もします。

 

6. お仕置き

「いつもワタシばっかり。アナタはズルいわ」

 

家事や育児のやり方、親族や友人、仕事の関係者とのつき合いなどにおいて、相手の落ち度を責め、自分への理解不足を糾弾します。いつも損をしたり、苦労するのは「ワタシばっかり」で「アナタはズルい」と非難するのです。
暴力は、そうしたお仕置きとして行われ、無視する、生活面のサポートを止める、お金を取り上げるなどの嫌がらせを正当化するだけでなく、「ワタシを困らせるアナタのせい」と責任転嫁します。交流を制限するなど社会生活の妨害に及ぶこともあります。くり返すことで、夫に対して妻への負い目や忠誠心、尽くす役割を強烈に刻み込みます。

 

解決のために:絶対にひとりにならないこと

「これは妻のDV?」戸惑う夫

それが「イジワル」や「悪ふざけ」や「ケンカ」なのか、あるいは「DV」なのか、被害者の判断は揺らぎがちになります。加害者から「DVなんて大げさな!」「冗談よ」「怒らせるあなたが悪いのよ」などと言われると、被害者側は「そうかな?」と思ってしまいがちです。

 

さらに被害者が男性の場合、「妻の小さなワガママさえ受け入れられない器の小さい男だ」などと批判されかねないジェンダー・バイアスから、当事者が判断しづらく、周囲に発覚しにくいことが多いのです。

 

判断基準は「妻のことは好きだけど、やめてほしい」

ひとつのわかりやすい判定基準として、パートナーの言葉や行動について「パートナーのことは好きだが、やめてほしい」と感じるならば、それはDVに発展する可能性が高いでしょう。早いうちにこうした傾向が発見できれば、二人の話し合いで解決することもあります。ただし、


・身体的/精神的に治療が必要になる
・社会活動が困難になる
・家庭から逃げたいと思う

 

というレベルであれば、第三者に相談するべきでしょう。あなたのためにも、家族のためにも。

 

DVは「親密な関係性」という人間関係の密室で行われ、発見されづからかったり、外部から介入しにくかったりする犯罪です。当事者同士が共依存関係になりやすく、社会から切り離されてしまうことで、深刻化します。もし、今すぐに解決への行動を起こせないとしても、孤独になってはいけません。判断に迷うなら(残念ながら、マインドコントロールされているかもしれません)、誰かに打ち明けてください。苦しんでいるなら、誰かに救いを求めてください。相談窓口はたくさんあります

 

よいSOSとは、早い段階で出されるSOSです。

 

今の状態が「おかしい」と思ったら、ひとりで考えないで。そばに、必ず、誰かがいることを思い出してください。

 

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