トラウマとは? 知ってるようで知られていない厄介な事実

アダルトチルドレン(AC)のほとんどが抱える問題、トラウマ。
トラウマとは、死の危険に直面するような恐ろしい衝撃的なできごとによって受けた心の傷「心的外傷」を意味します。できごとのあと、自分の意志とはまったく無関係に、心身に症状が現れることがあります。これをトラウマ反応といいます。原因となったできごとが、災害か事故か犯罪かで反応は変わるものではありません。強いから、経験豊富な人だからといって起こらないとは限らないし、老若男女問わず、誰にでも起こり得ます。とはいえ、同じ体験をしたから必ずトラウマ反応が出るとも言えず、また、発症と消失のタイミングもわかりません。体験後すぐに発症し、10日で消える場合もあれば、体験から3か月、半年が過ぎて発症する場合もあります。

 

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トラウマ反応は自然解消されずに長く消えない場合、日常生活に支障をきたすことになります。苦痛を伴う症状が1か月以上続き、治療を必要とするほど重症化するのが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という病気です。程度の差はあれ、自力での回復は難しく長い道のりとなります


ただし、トラウマの厄介な面は、これだけではありません。

 

どんなことがトラウマになる?

戦争、災害、犯罪、事故、レイプ・DV・虐待などによる被災・被害・被虐体験、また、家族や友人の死といった喪失体験がトラウマを起こします。このようなトラウマを起こすできごとを「外傷体験」といいます。

 

◆外傷体験の共通点
・受傷者に落ち度がない
・無力で抵抗できない
・非日常的/非現実的
・理不尽なできごと

 

一回の甚大なできごとがトラウマになり、それがPTSDを引き起こすことはよく知られています。ただ、できごとの規模は小さくても、それが長期間くり返し行われることでダメージが蓄積されて、トラウマになる場合もあります。その結果、トラウマ反応が重症化するのが「複雑性PTSD(C-PTSD)」です。

 

アダルトチルドレンを悩ます「複雑性PTSD」とは

日常的にくり返し続けられる身体的/心理的なイジメや虐待、ハラスメントの被害者、機能不全家族で育った「アダルトチルドレン(AC)」が体験的に背負う厄介なトラウマがこれです。一般的に、PTSDよりもダメージが深刻で、治療も長期化する傾向があります。

 

◆複雑性PTSDを起こす外傷体験

・日常的/習慣的にくり返される
・長期にわたって苦痛を受ける
・軽視されたり、見過ごされたりしやすい
・内情がわかりづらく、理解されにくい

 

大地震や津波の被災で知られるようになったPTSDは、精神医療では決して珍しい病気ではありません。一方、複雑系PTSDは、社会的認知が進まず「何それ、病気なの?」と疑われたりします。トラウマ反応に悩む本人ですら、病気と気づかないことがよくあります。ともすると、心身に現れる症状に苦しみながら、「自分のせい」「自分の落ち度」と自分を責める人すらいるほどです。

 

さらに、「親孝行はできるときにしなよ」「そんなに教育してくれるなんていいお母さんじゃない」と誤解されることもACを苦しめます。残念ながら、「自分を変えたいっていうけど、口ばかりだね。治す気ないんじゃないの?」と言われることもあるでしょう。そんなに簡単に、パッと変われるはずもありません。たとえ親しい人や援助者であっても理解されにくく、それがACの苦しみに拍車をかけるのです。

 

トラウマの身体的な反応

精神的なダメージを受けたことで、身の安全を守るため、交感神経が優勢のまま、緊張状態が続き、リラックスできません。その影響で、筋肉の収縮、ホルモンバランスが乱れる、免疫バランスの崩れることで次のような反応が起こります。

 

・不眠
・食欲不振、吐き気、腹痛、下痢
・排泄の失敗(失禁、夜尿症など)
・アレルギー症状の悪化
・うつ症状(引きこもる、塞ぎこむ、寝こむ)
・アルコールや薬物への依存

 

このほか、めまいメニエール病突発難聴を起こしたり、過呼吸パニック症状のきっかけになったりすることもあります。治療そのものものですが、精神状態によって症状が悪化したり、長引いたり、厄介なつきあいを強いられます。

 

トラウマの心理的な反応

PTSDの典型的な症状といわれる心理的な反応は、①再体験、②回避・麻痺、③過覚醒の3つがあります。

 

外傷体験によって、激しい衝撃や恐怖を感じたり、長年尋常でないストレスが蓄積されたことで、「自分に何が起きたのか」という整理がついていません。時系列や混乱し、記憶もよく覚えていることとあいまいな部分が混在しています(記憶の断片化)。そのため、ふとしたことで意識に不確かな記憶が入り込むと、フラッシュバックや悪夢として現れます。その恐ろしさから逃れるために、体験をなかったことにしたり、感覚を鈍らせて感じないようにする。あるいは、逆に、体験の恐怖が大きすぎて手放せず、警戒を解けずにいる、という心理状態に陥ります。落ち着いて体験をふりかえることができないため、自分の居場所はどこにもない、なぜ生きているのか、と悲観的に思いつめたり、誰も信じられない人間不信や厭世観を募らせたり、厄介な感情が押し寄せてくるのです。

 

①再体験(フラッシュバック)

傷ついたときの体験が、自分の意志とは無関係に突然思い出され、相手や環境、できごとそのものへの恐怖や憎しみ、悲しみ、痛み、屈辱、無力感、敗北感などの感情が蘇ります。息苦しさや発汗、手の震えなど、身体的な反応を伴うことも少なくありません。症状とともに覚醒時だけでなく、睡眠中に悪夢にうなされることもあります。

 

生々しい体験がくり返し蘇ってくることで、恐怖や緊張が高まり、またフラッシュバックそのものを恐れるようにもなります。フラッシュバックには、たいてい何らかのきっかけで起こりますが、最初のうちは、それが何かわからないため非常に混乱し、社会生活に不安を感じます。恐怖の度合いによって、通勤・通学や外出が困難になるなど、社会的な活動に影を落としかねません。

 

②回避・麻痺

トラウマ体験にまつわる物事を徹底的に避けようとします。場所、状況、人物、活動、イベントなどについて考えたり、感じたり、話したりすることを拒否する、その体験を思い出させるものを処分する、その当時の記憶を失う(解離性健忘)など、「なかったこと」にしようとするのです。

 

あるいは、防衛本能が働いて、そうした事柄から刺激を受けないように、感情や感覚が鈍くなることもあります。感情が麻痺したり、自分が社会から切り離されてしまったように感じることもあります。お気に入りの習慣やとても好きだったことへの関心を失い、日常の喜びを味わえなくなりますうつを発症させることも少なくありません。

 

また、対人面でも自然で自由な交流ができなくなって、社会的な孤立を深める場合もあります。異性による裏切りや虐待、あるいは喪失体験のトラウマを持つ場合、男性/女性不信や回避依存(人を愛せない、人と親密になることを避けるために起こる、コミュニケーション障害)を招くこともあります。

 

③過覚醒

自律神経が興奮・緊張状態から抜けず、いつまでも続いてしまう状態です。傷つけられることがないように過剰な警戒心が働いている状態といえます。たとえば家庭でリラックスしてくつろいだり、安らぐことができなくなるケースもあります。緊張が解けないため、睡眠も難しくなります(入眠困難、中途覚醒、不眠)。そのため、身体的に非常に疲労します。「安全地帯なんてどこにもない」、「自分に居場所なんてない」という絶望に陥ることもあります。

 

また攻撃されるのではないかと、過敏になって、ささいな音や光にも、体がビクっとしてしまうこともよくあります。また、緊張状態が続いて、仕事が手につかないなど、集中力も散漫になります。

 

複雑性PTSDの特徴

複雑性PTSDには、PTSDとは異なる次のような特徴が知られています。

 

・強い罪悪感や自己嫌悪
・コントロールできない怒りや悲しみ、孤独感
・軽視されたり、見過ごされたりしやすい
・他者や人間関係への恐怖感
・注意や集中力を欠く時期がある
・解離が起こりやすい
 (自分が自分であるという感覚の喪失)
・自殺願望、あるいは「消えたい」願望
 (ACの場合、生まれたことへの後悔や疑問)
・行動嗜癖(依存行動)に走る

 

行動嗜癖は、薬物やアルコールなどの物質に依存するのではなく、特定の行動や関係にのめりこむことです。自傷行為(リストカット・抜毛)、摂食障害(過食・拒食・過激なダイエット)、恋愛・セックス、買い物・借金、仕事・運動など。「〇〇依存」「〇〇中毒」と呼ばれますが、診断名ではありません(医療機関で治療の対象にならない)。

 

こういった嗜癖が行われるのは「苦痛を和らげる」「安心する」ことが目的です。誰かに助けを求めるのでなく、逆に誰にも知られずに自力で解消させる手段として行われます。実際、依存行動をすることで、脳内に多幸感や鎮痛作用をもたらすβ-エンドルフィンが分泌される*1ことが確認されています。

*1:行動嗜癖

 

トラウマのケアと回復

冒頭で書いたとおり、ひとりで自力で回復することは困難、ほぼ不可能です。PTSDは、適切なサポート、治療を受ける必要があります。

 

PTSDの治療では、心理療法でのトラウマケアと薬物療法での症状のつらさの軽減が行われます。


PTSDの代表的な心理療法

①持続エクスポージャー療法(曝露療法)
 セラピストとともに外傷体験に積極的にふれ、対話することで、どんなことが起き、何を体験したのかを整理し、トラウマを受け止めることができるようになり、そこから回復へと向かっていく。


②認知処理療法
 セラピストとの対話によって、トラウマの自然な回復を妨げる「ひっかかり(スタックポイント)」となっている考え方や行動を見つけることで、トラウマを解きほぐしていく。

 

③眼球運動脱感作療法
 眼球運動によって過敏なトラウマ反応の解除(脱感作)に導く。セラピストの指の動きを追いながら、トラウマ体験にさらされる状況を想像するよう指示され、それを言語化する。


④ストレス管理法
 呼吸法、ヨガ、瞑想など、不安を和らげ、コントロールすることでストレスや症状の軽減を図る。

 

④ストレス管理法以外、熟練した専門家によって行われる外傷体験に向き合う療法になります。トラウマ自体はもちろん、その体験を思い起こさせる小さな事柄にすら、ふれることは苦痛を伴う難しいものです。素人判断や興味本位で臨めば、いたずらに傷つけるだけになりますし、かえって悪化させるだけです。

 

【参考記事】

  心を整える呼吸法
~不安やストレスの軽減・トラウマケア・安眠
 
唯一、ひとりで行っても悪化のリスクがなく、それなりに効果が出る呼吸法についてまとめています。フラッシュバックや過呼吸のコントロール、不安や混乱の鎮静化、リラクゼーションに活用してみてください。

トラウマから回復するためにできること

●なるだけ早くケアする

被害後のサポートが不足したり、生活ストレスが大きいケースではPTSDが発症しやすくなります。我慢や遠慮をすることなく、周囲に助けを求めてできるだけ早い段階でサポートを受けましょう。
また、危険にされされながら救援する人、トラウマ体験を聞いてケアする人も二次受傷によるPTSDのリスクが高まります。助ける人だからこそ、ケアが必要になります。

 

●つらい気持ちを打ち明ける
ひとりで抱え込んでいるだけ、ネガティブな思いが増幅されてしまいます。心のケアも「受けようか、やめようか」と悩んでいるなら、早く受けるべきです。医師やカウンセラーに、あるいは自助グループなどで「気持ちを話してみる、吐き出してみる」ことをお勧めします。

 

●運動・エクササイズ・リラクゼーションは積極的に
身体を動かすことはセロトニン分泌を促し、安心感をもたらしたり、快い疲労とともに安眠に導いてくれます。ヨガやピラティス、アロマテラピー、呼吸法などお好みのリラクゼーションも積極的に行いましょう。

 

●カフェイン・アルコールなど摂取に注意
元気を出そう、盛り上げていこうとカフェインやエナジードリンクの摂取、飲酒が増えることがあります。カフェインは不安を増強するので注意が必要です。症状を和らげようとしてお酒、ときに薬物を過剰摂取することで別の問題を引き起こし、トラウマから目を反らす場合もあります。

 

●無理せず、焦らず、休み休み
以前は感じなかった疲れや倦怠感を伴うことがあります。このときは無理せず、焦らず、休み休み進めましょう。落ち着いて学校や仕事を戻るとき、トラウマからの回復にむけての活動のとき、あるいは裁判や補償の手続きなど行うとき、時間効率を求めてはいけません。ゆっくり進んでいることを確かめて。つらいと感じたときは、誰かに助けを求め、心と体を休めることです。

 

ACのトラウマ克服には時間がかかる

トラウマの克服そのものが時間がかかり、難しいものであるとともに、ACが抱えるトラウマは、長期間かけて形成される複雑系PTSDを引き起こすタイプの理解されにくいもの。加えて、幼少期の虐待やつらい経験など複数の逆境体験を持つ人はPTSD発症のリスクが高いとのデータがあります。心理的な反応からうつなどの精神疾患の発症につながることもあります。

 

トラウマが夢や魔法のように消えたらどんなにいいことでしょう。しかし、現実的ではありません。「トラウマが消える」「トラウマをひとりで回復」をうたい文句にした商品・サービスもまた、現実的ではありません。せめて悪化させないことを願うばかりです。

 

しかし、希望はあります。ACのトラウマ克服の鍵も、ほかのトラウマ克服と同様に「何が起きたのか」を正確に理解することなのです。毒親がどんな意図をもってどんな信念を刷り込んだのか、何がそうさせたのか、そして、そのとき、自分はどう感じ、何を求め、何を期待し、何を得られなかったのか――そこに向き合っていくことが、ACをトラウマ克服に導きます。

 

毒親を理解し、自分を理解すること。恐れずに、少しずつ向き合っていくことで、トラウマを癒し、本来の自分を取り戻していきましょう。

 

【参考記事】

  アダルトチルドレン(AC)が
“自分”を取り戻すために
 
ACの自己奪還には「自分が何者なのか」「生きづらさの正体は何なのか」など、自己をよく知る必要があります。ただし、ネガティブな面ばかりでありません、ACはレジリエンス(立ち直る力)となる強みも携えています。

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被災・被害者のPTSD治療/回復のための無料相談先

PTSDの治療やトラウマケアについて無料で相談できる窓口です。トラウマについて話せる人がいない、どこに相談すればわからないという方は、お近くの窓口で相談を。回復や克服の第一歩です。

 

トラウマ全般
全国の精神保健福祉センター
各地方自治体の精神保健福祉センターが設置する心の相談窓口。トラウマ/PTSDについて相談を受け付けている。本人・家族・関係者からの相談に対応。

 

子どものトラウマ
全国の児童相談所一覧(厚労省)
トラウマを抱えた子どもへの対応についての相談、専門的機関の紹介、保護者の心の相談に対応。

 

自然災害
心と健康の相談ダイヤル 0120-200-826

厚労省が設置している地震を含む豪雨災害などの被災者からのメンタルヘルスや健康に関する電話相談窓口。平日10:00~17:00。携帯電話やPHSからもつながるフリーダイヤル。

 

犯罪・交通事故の被害
各都道府県警察の被害相談窓口
各都道府県警察の担当課が設置。被害者本人だけでなく家族・友人からの相談も対応。相談内容によって専門機関を紹介。カウンセリング費用の公費負担制度の相談、問い合わせ。

※カウンセリング費用の公費負担制度
犯罪被害者が専門的なカウンセリングを受けた場合、被害者本人が自分で選んだ精神科医、臨床心理士などを受診した際の診察料やカウンセリング料を負担する制度。対象者や対応の範囲、手続きは各都道府県警察によって異なる。

 

全国の被害者支援センター
被害者支援センターは、被害者支援のための電話相談、カウンセリング、法律相談などを無料で行っている。

 

全国の民間被害者支援団体
都道府県公安委員会から指定を受けた民間支援団体。電話相談、カウンセリング、法律相談を無料で行っている。

 

レイプ・性暴力
#8103(ハートさん)

警察庁が設置する各都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通番号。

 

各都道府県警察の相談窓口(フリーダイヤル)
各都道府県警察が設置する性犯罪被害のフリーダイヤル電話相談窓口

※#8103、フリーダイヤルともに土日祝と執務時間外は当直が対応。一部のIP電話などはつながらない。
※カウンセリング費用の公費負担制度

 

#8891(はやくワンストップ)

内閣府が設置する全国の性暴力被害センター(ワンストップ支援センター)につながる全国共通ダイヤル。

 

全国のワンストップ支援センター
性犯罪・性暴力に関する相談窓口。産婦人科医療、カウンセリング、法律相談などの専門機関と協働している。

 

 

[AC/毒親チェック]

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