【アダルトチルドレンの悩み③】疲れるほど気を使う<前編:やめられない理由>
相手のことを徹底的に考えて、相手に合わせ、イヤでも断れない……こんな気を使いすぎる人はアダルトチルドレン(AC)にもよく見られ、その疲労とストレスはかなりのものです。
こんな自分の癖に気づいているのにやめられない、それには理由があります。<前編>では、気を使いすぎる人の共通点と、特別な原因について探ってみましょう。
お疲れ要素いっぱい!気を使いすぎる人の共通点
共通点(1) 責任のある立場にいる
気を使いすぎる人たちに多い特徴のひとつに、コミュニティーで責任のある立場にいるということが挙げられます。職場はもちろん、プライベートでも何かの役割を担うと、重く受け止めて「きちんとやらなくては」「失敗は許されない」と考えます。ただ単に責任感が強いだけでなく、「みんなを喜ばせたい」とか「満足してもらいたい」という気持ちがあり、「こうしたらいいんじゃないか」というアイディアが豊富で、創意工夫を凝らします。
ただし、非常に逡巡します。あれやこれや考えては「こんなことしたら、あの人はどう思うだろうか」と気を回し、誰からも賛成される方策を探るのです。そんな魔法はありませんから、考えを重ねただけ疲れ、ダメ出しされようものなら落胆します。
ことに中間管理職で、上司と部下、双方に賛同してもらえる方法が見つからず、思い悩む方は多いです。「こう言ったらどう思われるだろう」と気持ちを察するあまり、どちらに対してもストレートに論理的な提案ができず、相手の言い分を聞く一方。これでは疲れて当然です。
共通点(2) 周囲の視線が気になる
他人から後ろ指を指されることはもちろん、誰かがわずかに眉をひそめることすら、気を使いすぎる人にとっては由々しき問題です。みんなのため、公共の利益をつねに考えて、利他的に行動します。それは「得点稼ぎ」ではありません。集団の一員として溶け込み、みんなの役に立ち、喜ばれたいのです。判断基準は完全に集団・相手の意思に委ねられ、自分の基準を持ちません。だから、いつも自分が「間違ってないか、喜ばれているか」確認するため、敏感に場の空気を読み、相手の顔色・視線を観察するのです。
「これはマズイ」「これじゃダメだ」と誰より早く察知して、対策を講じます。ただし、その仕事を誰かに頼むとか、指示を出すことはありません。マルっと自分で抱え込みます。仕事は増える一方で、燃え尽きてしまう気を使いすぎる人も少なくありません。
公共の場を清掃や整備、備品の補充なども気を使いすぎる人の独壇場。いち早く気づいて整えます。時折、そんな誰より先に気づく自分の特性を「損な性格だ」と悔やむことも。自分より先に気づかない周囲の人を「いいな」と羨んだり、「なんで気づかないんだろう」とイライラしたりする負の感情をひそかに握りつぶすのです。
共通点(3) 自分のことを過小評価している
「ワタシのことはどうでもいいから」「ワタシは何でもいいから」と相手を優先させるのも気を使いすぎる人の特徴のひとつです。これは「謙虚・謙遜」とはまったく違います。事実、自分よりチーム、相手を優先する利他的な行動から、気を使いすぎる人は周囲に控えめとか遠慮深い印象を与えます。
実は気を使いすぎる人の多くは、自分に大きな矛盾を抱えています。「有能でなければならない」だけど「尊重されてはいけない」のです。
集団の役に立つ一員という有能な存在であることを自分に課す一方で、自分のことは二の次、三の次のどうでもいい存在だと乱暴に片づけます。自己評価が低い一方、有能でないと集団での居場所がなくなると恐れているのです。この矛盾は、人間関係に身を置く限り、強いプレッシャーとなって気を使いすぎる人を苦しめます。人疲れするのも当然です。人間関係から離れて「早くおうちに帰りたい」「一人になりたい」と望み、帰宅後はぐったり疲れています。
共通点(4) 素の自分を出せない
気を使いすぎる人は、人間関係の中で何らかの役割を演じています。会社などオフィシャルな場では一目置かれる能力や信頼度の高い同僚、プライベートでは正しくてやさしく美しい家族や友人といった役割を忠実に果たします。自尊感情が低い場合、「徹底的に目立たない存在」や「誰よりも下の立場」になりきる人もいます。
いずれの場合も、自分の演じている人物だと周囲から認めてもらえよう気を使い、行動するのです。
その結果、素の自分を出すことが極端に難しくなります。人前で息抜きやリラックスはできないし、何かにうっとりしてしまうとか、涙を流す、キレるなど、感情を露わになどできません。本音を言うなんて、もってのほかです。当然、こうした溜め込まれた抑圧された感情がストレスとなります。
気を使いすぎる人にとって、素の自分になれる安全地帯は生命維持に欠かせません。条件に見合う場所は非常に少ないでしょうが、自宅のほか、社内や外出先で使える緊急避難場所を確保しておくのが理想です。メイクを落とすように、演じていた役割をすべて解除することが、気を使いすぎる人の健康の維持増進の絶対条件になります。
共通点(5) 傷つけたくない/傷つきたくない
気を使いすぎる人は、どんな些細なことでも相手を傷つけるリスクを避ける傾向があります。人によっては徹底的に避けます。実際の出来事や相手の行動を指摘したり、評価することは苦手です。どんなときでも相手の意図を汲みとって理解を示し、それを踏まえて相手に依頼したり、了承を得ようとします。そのため話はまどろっこくなり、伝わりにくいことは否めません。
たとえば、何の連絡もなく待ち合わせ時間に30分遅刻した友人への苦言は、気を使いすぎる人の場合、こんなふうになります。
「連絡もできないほど困ってるんじゃないかって、すごく心配したのよ、いったい何があったの?……そう、大変だったんだね。でも、こういう大切な行事がある前の晩に夜更かししてはいけないよね。今度は寝坊しないように、わたしが朝電話してもいいかな? 何時なら間に合う?」
丁寧なヒアリングや提案・説諭によって遅刻者の罪悪感は薄められ、「遅刻するな!」というメッセージは伝わりません。
このタイプの気を使いすぎる人は、人間関係でのトラウマの持ち主でしょう。誰かが傷つく/傷つけられる場面に立ち合うことで自分のトラウマ場面がフラッシュバックするのを恐れ、それを避けるのです。1度や2度でない、長期間にわたる習慣的な受傷を経験していることも少なくありません。
疲れるほど気を使いすぎるのは原因があった
疲れるほど気を使いすぎてしまう特別な原因も考えられます。可能性としては、(1)HSP、(2)メンタル不調、(3)アダルトチルドレンが挙げられます。
気を使いすぎる人たちは、共通して自己肯定感や自尊感情が低い傾向にあります。自己肯定感・自尊感情を向上させていくには、その土台となる自分軸を立て直すことからスタートです。
【参考記事】
あなたの幸せは、誰かによく思われることでなくて、あなた自身を実感できること。自分を変えたい人は、気になる「他人の目」が気にならなくなるように、しっかり習慣づけましょう。
鍵は「自己認識力」です。
(1)HSP (ハイリー・センシティブ・パーソン)
『「繊細さん」の本』のベストセラーで、話題に上ることが増えたHSP(Highly Sensitive Person=生まれつき非常に敏感な人)は、1996年にアメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した、全体の15~20%に見られる気質です。病気ではありません。
音や光に敏感で刺激を受けやすく、感受性・共感性が強く、物事を深くとらえて考えるため疲れやすいという特徴があります。他人から理解を得にくく、生きづらさやメンタル不調を抱えることも。また、キレやすい家族(大声を出す、物を壊す、暴れる)や両親の不仲(ケンカ)、DV・虐待などを体験して育ったアダルトチルドレン(AC)にも、HSP傾向の高い人がみられます。
自分がHSPか気になる人はアーロン博士の日本語版サイトにセルフチェックがあります。
HSPの人は、その特性から人間関係で気を使いすぎて疲れてしまいがち。これはしかたありません。自分の特性を理解して、ちょっと人とは違う自分のケアをする必要があります。たとえば、敏感な感受性を刺激から遠ざける「思いっきりぐったり休養する時間」は他の人より長く必要です。高い共感性ゆえの律儀で丁寧なコミュニケーションで自分を縛るのもやめましょう。なんでも丁寧に理由を述べる必要はないし、答えが出なければ回答は先延ばしでOK、なんなら答えなくてもいいし、気が向かないならノーと言っていい。ぶっきらぼうで雑かもしれないけど、自分のことは守れます。
このようにHSPならではの対処がありますが、HPSであることを決して「不幸だ」「厄介だ」とは思わないでください。あなたは豊かな感受性を備えたすばらしい人です。
武田 友紀(飛鳥新社/2018年)
HSPの存在を世に広めたベストセラー。
イルセ・サン(ディスカヴァー・トゥエンティワン/2016年)
自身もHSPの心理療法士イルセ・サンによるセルフセラピーブック。HSPが癒される活動のアイディアが豊富。HSPチェックリスト付き
(2)メンタル不調
漠然とした不安がある、なんとなく憂鬱、イライラが止まらない、落ち込むことがあった、緊張が抜けない、やる気が出ない、よく眠れない、ふいに涙がこぼれる……こんな状態が長く続いている気を使いすぎる人はメンタル不調に陥っているかもしれません。
まず休養しましょう。ストレスやダメージの原因に思い当ることがあって、感情が不安定なら精神科・心療内科の受診をお薦めします。放置すると、気遣いしすぎて燃え尽きてしまったり、うつを発症させたりすることがあります。ことに気づかずに「これじゃダメ」「~するべき」「もう~しかない」と自分を追い込んでいるときは危険です。
憂鬱さ、不安感、イライラの軽い時点でメンタル不調に気がつけば、疲労やストレスをコントロールして、気を使いすぎるのをやめることで解消できます。後編「気を使いすぎる人が今日からできる改善策」を試してみましょう。
(3)アダルトチルドレン
幼少期の愛着形成が不十分で、承認欲求を満たされなかった機能不全家族で育ったアダルトチルドレン(AC)の多くは気を使いすぎる人になります。他人の顔色をうかがい、他人の目を気にするのが小さい頃から習慣になっていて、人間関係を築くのが苦手なので、いつもビクビクした緊張状態が続き、疲れるのです。 →自分がACか気になったら「毒親4タイプ診断3分でわかるセルフチェックリスト」
幼少期にトラウマや苦悩を抱えたACは、悲観的で自分を過小評価する傾向にあります。それが気の使いすぎに拍車をかけます。加えて、「相手からどう思われるか」という不安や、「いつもいい子(いい人/正しい人)でいなければならない」という思い込みで、自分を追いつめてしまうのもACの抱える代表的な問題です。
これらはACが毒親から長年かけて刷り込まれた価値観や行動パターンによるものなので、一朝一夕に改善はできません。まず「自分がこう考えたり行動するのは、ACのせい」と気づくこと。そして「自分にはこういう思考や行動のパターンがある」と知ることで、徐々に修正はしていけます。
いろいろ問題を抱えた気を使いすぎる人ですが、失望することはありません。誰でもできる改善策もちゃんと<後編>にまとめました。人間関係で疲れたくない人は、できることから試してみてください。
[AC/毒親チェック]
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