機能不全家族で失われる“自分”~毒親とACの共依存
更新日:8月27日
肉体的・精神的な虐待やDV、両親の不仲、貧困、薬物依存、病気、不在などによって「親が子どもを育てる」という機能を果たしていない家族を【機能不全家族】といいます。
あなたの育った家が機能不全家族かは、こちらのチェックリストで診断できます。
外見や家庭環境は豊かで健全そうに見えても、仕事や趣味、社会活動に没頭し不在の親、子どもを過度に甘やかす、強制する、支配する親なども「育てる」機能を果たしているとはいえません。そんな機能不全家族に適応して生き抜き、心に傷を抱えながら成長した子どもが【アダルトチルドレン(AC)】です。
家族はなぜ機能不全に陥り、機能不全家族には何が起こるのでしょうか。そもそも、親がどうして毒親になるのでしょうか。
家族の機能って何?
病気や不慮の事故によって経済基盤を損なわれたり、母子家庭・父子家庭になっても、家族で困難を乗り越えて健全に育つ子どもは大勢います。では何をもって家族は「機能不全」に陥るのでしょうか。
子どものアイデンティティを確立させる5つのニーズ
子どもにとって健全な家庭とは「あるがままの自分でいいのだ」という自己肯定感を育む安心・安全な場所です。そこで愛情を得て育つことによって「自分は自分である」という感覚(自我同一性=アイデンティティ)を養い、確立させていけるのです。
親には子どもの身体的なニーズ、精神的なニーズ、社会的なニーズを充足する義務と責任があります。スーザン・フォワードは著書『毒になる親』のなかで、次のようにわかりやすく述べています。
親は子供の肉体的なニーズに応えなくてはならない。 (衣食住・体の健康に必要としていること)
親は子供を、肉体的な危機や害から守らなくてはならない。
親は子供の精神的なニーズに応えなくてはならない。 (愛情・安心感、常に注目していることなど、心の面で必要としていること)
親は子供を、心の面でも危機や害から守らなくてはならない。
親は子供に道徳観念と倫理観を教えなくてはならない。
子どもが発達過程でアイデンティティを確立するには、少なくてもこの5つのニーズが満たされている必要があります。逆に、経済的困難や健康面の問題を抱えていても、5つのニーズが満たされているなら、親が子どもを育てるという機能をしっかり果たされているといえます。
スーザン・フォワード『毒になる親 完全版』
2021年、30年ぶりに出版された
原著の完訳版(毎日新聞出版)
ニーズが満たされない子どもに起こること
機能不全家族では、子どもが育つために必要な5つのニーズを満たしてもらえません。そんなとき子どもは未熟ながら、大人ですら難しいことを自分でどうにかしなければなりません。よその子と違って自分がなぜニーズを満たしてもらえないのかという疑問に対して、合理的な理由づけで自分を納得させる必要もあります。当然ながら、提供されるのは歪んだり、不完全だったり、不安定だったり、あるいは過剰だったりします。自己肯定感を育むことも、アイデンティティを養うことも困難になります。
その結果、自分を認めることも受け入れることもできず、大人になってからも「自分が何者であるか」と迷い、人生をどうしていいのかわからなくなります。「居場所がない」という不安や焦り、「なぜ生まれたのか」という自分の存在を否定する後悔や罪悪感、「なぜ生んだのか」と親を恨み非難する気持ちなど複雑な多くの感情を抱え、混乱するのです。
家族が機能不全に陥る原因
機能不全に陥る原因として、ACが発見されるきっかけとなったアルコール依存症などの薬物依存や虐待・DVなどがあります。そのほか、機能不全に陥ったり、子どもが将来トラウマを抱えるリスクの高い家にはいくつかの特徴が見られます。
すでに機能不全に陥っているケース
以下のいずれか、あるいは複数の問題を抱えている家族は、高い確率で機能不全に陥ります。
ギャンブル・アルコール・薬物などへの依存
破たんした夫婦関係、DV・ケンカ・暴力
長期間の病気や療養生活、家族の介護や看護
失業、経済不安
不在(仕事や趣味、宗教など家庭外での活動で多忙)
1.だけでなく、すべてのケースで依存があります。健全であれば、経済的・健康的な問題を本人も乗り越えようとしますが、弱者だと訴え、配偶者や子どもに依存します。また表面化していながら解決しない夫婦関係の問題には共依存が、家庭を顧みない5.のケースでも仕事などへの依存があります。
機能不全に陥るリスクが高い家庭
肉体的なニーズや危険からは守られても、精神面や愛情面、倫理観や道徳的なニーズが健全ではない家庭も、機能不全といえます。機能不全に陥りやすい傾向として、このような特徴が挙げられます。⑩の拡大家族や代々家業を営む家は、相続などの問題を抱えやすく、条件によってリスクが高くなるでしょう。
頻繁に、怒りを爆発させる家族がいる家
心の交流やスキンシップに欠けた冷たい愛のない家
子どもを兄弟姉妹間、あるいは他人と比較する家
子どもがやることなすこといちいち非難される家
大きすぎる期待や高すぎる理想を子どもに課す家
家の資産や家族の勤務先、出身校などスペック重視の家
世間体を非常に気にするうわべだけを繕う家
親子の関係が逆転している家
嫁姑など世代間でひどい確執がある家
拡大家族(多世代同居)や代々家業を営む家
機能不全家族で何が起きているのか?
家族としての機能が正常に働かない家庭を運営していくには、正常なシステムでは不可能です。その代わりに、無理や不条理によって運営する「歪んだシステム」が、機能不全家族には存在します。このシステムのベースにあるのが家族間の共依存です。ACが毒親とわかっていても、親や家族から離れられない、自立できない理由がここにあります。
(1)歪んだマインド
家族固有の考え方の基本となる、信念です。価値観、倫理観、教育観、職業観、金銭感覚や人間関係の考え方、よい・悪いの判断、態度や言葉遣い、行動パターンなどの元になっています。その家で「親が子どもにどういう姿勢で向き合うべきか」「子どもはどのようにあるべきか」という考え方は、もちろん家ごとに異なります。
機能不全家族では「親が中心」で、子どもは尊重されません。「親はいつも絶対に正しい」「子どもはどんなことでも親に従うべき」といった家族固有の歪んだマインドが働いています。代表的なものでは「しゃべるな、感じるな、信じるな」があります。
こうして親から継承した歪んだ信念・価値観に大人になってからも囚われ続け、ACを生きにくく、苦しめることになるのです。
(2)歪んだルール
マインドが「憲法」ならば、それに則って細かく定められるルールは「法律」です。「門限は○時です」「家族が誕生日の夜は、みんなで祝いましょう」といった、それぞれのルールには裏側にメッセージがあります。門限は、子どもの安全な社会活動を守るものであり、家族の誕生日をみんなで祝うのは、家族の成長と健康を祝福しあい、楽しいひとときを家族で共有したいという願いが込められています。
機能不全家族では、歪んだルールがあります。「学校から帰ったら親の手伝いをしなさい」「テストで○点以上をとりなさい」といったルールは、一般的かもしれません。機能不全家族ではこの裏に「さもなければ愛してあげません」「いつも親の思いどおりに動きなさい」といった、メッセージがあるのです。子どもたちはこのメッセージを読み取り、要求に従うことになります。
(3)家族の歪んだ絆
家族は、独立した子どもたちは「いつでも帰れる場所」であり、その絆は理解しあい支えあう心のつながりですが、機能不全家族でのそれは、歪み固められたものです。家族は「離脱することが許されない場所」であり、絆は「事実を否認する心のつながり」です。いずれも、さまざまな問題を抱えた家族を理解し、支えるよう強制するものです。
たとえば、「お父さんは殴るけど、仕事で忙しくてストレスを溜めているってことをわかってあげなくちゃいけないんだ」。「僕がもっといい成績をとったら、あんなにお父さんが荒れることもなくなるはずだ」といった形で。この絆は、永久不滅です。このドラマは終わりませんし、やめることも離れることも、許されていません。
(4)秘密主義
地域や子どもの同級生家庭など、ほかの家族との交流が少なく、機能不全家族の様子は外部になかなか伝わってきません。家族の暴力や夫婦の不仲、依存症やギャンブル癖、失業や経済的な困窮などが家庭の外に漏れ伝わることのないよう、厳重な箝口令が敷かれており、他者の介入を許しません。閉ざされた環境で、問題がさらに深刻化しても、子どもたちは「しゃべってはいけない」のです。
親が毒親になった理由
世代間連鎖:毒親も毒親育ち
ほとんどの場合、毒親もまた毒親育ち、ACです。生き物は自分が育てられた方法でしか子どもを育てることができません。自分、あるいはいっしょに育った兄弟姉妹が親から育てられた方法をそのままコピーします。これを「投影性同一視」といいます。
自慢の子どもをアクセサリーのように見せびらかすために子どもに過度の期待をして勉強やスポーツに打ち込むように仕向ける親は、自分がそうされたか、兄弟姉妹がそうされたのを見て育った子である可能性が極めて高いでしょう。機能不全家族、ACともに世代間連鎖はよく見られます。
そのためでしょうか、結婚や自分が子どもを持つこと、その可能性を感じる出来事に対して、違和感や嫌悪感を示すACは少なくありません。直感的に世代間連鎖をとらえ、「自分は毒親になりたくない」という強い意思の表れのようにも感じられます。
不安・嫉妬:最大の愛情⇔最大の障害
親にとって、子どもは最大級の愛の対象であり、子どもの成長は最大級の喜びです。だからこそ、危険に対して神経質なほど敏感にもなれば、残虐なほど攻撃的にもなれます。幼い子を持つ親にとって、そんな臨戦態勢が24時間365日続き、自分の時間を持つことができません。子どもは最大の愛の対象でありながら、同時に、自己実現を邪魔する最大の障害でもあるのです。育児の緊張と子どもへの葛藤によるストレスを解消できず、子どもへの虐待や配偶者への攻撃につながることがあります。さらに、ワンオペ育児や嫁姑間の衝突など家族問題、産後うつなどのメンタル不調が重なり、共依存に陥ることで毒親化することもあります。
ほかにも、毒親のタイプごとに異なる理由が考えられます。
あなたの性格ではなく毒親からの刷り込み
今、あなたが感じている生きづらさや周囲との違和感などから、人間関係うまくいかなかったり、混乱したりするのは、あなたの性格ではありません。幼児期に適切な愛着関係を形成できなかったことでアイデンティティが散漫ぎみで不安定なのは、あなたのせいではありません。機能不全家族と毒親によって、歪んだ信条を刷り込まれたことによるものです。
あなたが毒親から、どんなマインドを刻みつけられ、どんな体験によってどれだけ傷けられ、それが現在の、考え方や感じ方、行動のパターンにどう影響しているのか。それを理解することで初めて、習慣づけられてしまった癖を修正していけます。
毒親を理解することは、自分を理解することです。恐れずに、少しずつ向き合っていくことが、本来の自分を取り戻す第一歩になります。
[あわせてチェック]
・子ども時代に機能不全家庭で演じていた役割
その役割からどんな影響を受けているのか
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