【アダルトチルドレンの悩み②】悪意を持った相手につけ狙われる<前編>
更新日:8月27日
「質(タチ)の悪い人からよく絡まれる」
「しつこくつきまとわれる」
「図々しい要求をされた」 これらは、アダルトチルドレン(AC)の人に多い困りごとです。たしかに、ACはイジメ・詐欺・搾取など悪意のターゲットにされやすい傾向があります。なぜ、こんな面倒が多発し、どう対処すればいいのでしょうか?
前編ではその理由について考えてみましょう。
※2021年04月13日記事に加筆・編集を加えて公開します。
アダルトチルドレンの心に宿る基本的不安
アダルトチルドレン(AC)の狙われやすさ、騙されやすさは、毒親に育てられる過程で作りあげられた性格といえます。
1942年に神経症*で悩む一般読者向けに、自立・自助の方法を解説した『自己分析』の著者で、新フロイト派の精神分析家で医師のカレン・ホーナイは、神経症を起こす要因になる「基本的不安」という概念を提唱しました。
* 神経症は、器質的な原因がなく、幻覚や妄想などの障害が見られない、性格・ストレスなど心理的要因が引き起こす精神障害で、不安障害、神経衰弱、恐怖症などを指す。以前はヒステリーやノイローゼ、心気症が含まれた。フロイトは神経症を「無意識の葛藤により症状が生まれる」としたが、ホーナイは(1)基本的不安が生まれた幼少期の経験と(2)基本的不安への適応と自己防衛の2つの要因から発達したものとしている。
基本的不安は「無力で無防備な自分が敵対的な世界に置かれている」という不安感や孤独感で、真の感情や帰属意識、関係性への肯定感や自発性の成長を阻害します。そのため、基本的不安を持った子どもはアイデンティティや幸福感、社会性を健全に発達させることができません。
ホーナイは、愛情のない敵意に満ちた環境の中に置かれることが基本的不安の源泉になるとしており、具体的に親の支配的、過保護、威嚇的、怒りっぽい、厳しすぎる、甘やかしすぎる、一貫性がない、他の兄弟をえこひいきする、偽善的、無関心などの態度を挙げています。現在の影響はどうであれ、同様の条件下で育ったACの心には基本的不安が宿っているといえるでしょう。
幼い頃に選んだ基本的不安に対する3つの態度
ホーナイは、基本的不安に対処するために人が選択する態度として、次の3つタイプを挙げています。この3つの対処法を、不安や問題への対処法として人は日常的に使っていますが、過剰に用いられた場合、神経症的リスクがあると考えられています。
(A)追従型 相手に近づく
相手に対して自分が寄り添う、迎合する態度を示す。相手からの注目や愛情を受けることで不安を払しょくする。従順で協調性があり、衝突や対立は避ける。相手を喜ばせるために自己犠牲を顧みない。依存的、服従的。批判を嫌い、見捨てられることを恐れる。
【理想】完璧な善良さ、他者に喜ばれる
【リスク】自己否定的、自己欺瞞、燃え尽き
(B)攻撃型 相手に対抗する
相手に対して自分の優位性・権利・利益を主張し、敵対する。攻め勝つことで安心を得る。傲慢に相手の感情や権利を無視し、支配下に置くことを好み、冷酷に人を欺き、陥れることも厭わない。弱さや脆弱性、劣等感を恐れ、自分の愛情ややさしさを抑圧する。
【理想】強大な支配者、強く優れた成功者
【リスク】自己拡大的、攻撃性、怒り、反社会的
(C)離脱型 相手から離れる
相手に対して無関心で、集団から孤立していく。相手に近づき安心を得ることも対抗して安心を勝ち取ることも不可能な場合、自分の内面に逃避する。他者からの独立と自由を得て、内面の純粋性を保持することで安定する。他者との関与、愛着、依存を恐れる。
【理想】自律的合理的自己、自由、自給自足
【リスク】自己限定的、自閉、対人忌避感
ずっと同じタイプの人だけでなく、(A)→(C)、(B)→(C)と変わった人、(A)ときどき(B)、(B)相手によって(A)、(A)&(C)混合など、その場その場で選択を変える人ももちろんいます。
ただ、この記事を読んでいるあなたは、(A)追従型を選択する場面が多いかもしれません。
アダルトチルドレンが悪意のターゲットにされる理由
基本的不安は、正常で自然な感情でなく、病的で異常なものだとホーナイは述べています。だから、その反応は、過剰に歪んで表現されるのです。たとえば、(A)追従型ならば、自己を否定してまで相手に合わせてしまいます。
そこを悪意のある相手に狙われ、つけこまれてしまうのです。
理由その1 相手を否定せず受け入れる習慣を身に着けた
赤ちゃんや幼い子どもにとって、母親の愛情を得ることは生存戦略です。食事や睡眠、安全・安心を得られなければ、命の危機があるからです。さらに、安全と愛情で満たされれば、自我や社会性、幸福感を健全に発達させていくことができます。これが基本的不安がない状態です。
一方、愛情を与えない毒親や敵意に満ちた機能不全家族に育てられ、基本的不安が形成されたアダルトチルドレン(AC)が、人生の初期で生きるために(A)追従型を選んだことは明白です。だから必死で親の顔色をうかがい、喜ばせようとしたのです。愛され、認められるために、手間のかからない子、聞き分けの良い「イイ子」を演じました。ワガママはもちろん、本当にやりたいこと、好きなこと、ほしい物を主張したりしません。怒りが湧いても抑圧し、自分を殺して服従しました。ACは毒親であれ、相手を否定せず受け容れます。長い学習の末、染みついているので、条件反射のように、相手を否定せず受け容れてしまうのです。悪意がある相手はそこをつけこんできます。
理由その2 諦めという絶望を学んだ
基本的不安を感じた子どもがどんなに近寄ってアピールしても、毒親が無関心で承認を得られない場合、子どもは幼くても(C)離脱型を選択し、自分の世界に引きこもることもあります。ときどき表情が乏しい乳幼児は、この幼さで(C)離脱型を選択した子でしょう。どんな手を尽くしてもを承認も愛情も得られないことを知り、「どうでもいい」と諦めてしまったのです。
(A)追従型を選んだアダルトチルドレン(AC)も、希望も要求も、全否定、あるいは完全無視されるうちに気づきます。「よその家の子と違って、うちでは要求をしても得られない」と。これを何度も何度もくり返し体験します。こうして、他の子より早くACは「諦める」という絶望を学ぶのです。
また基本的不安によって健全な自尊心を発達できないACは「自分はそうされてもしかたない存在だ」と諦めています。否定してもどうにもならないと知っているからです。だから、相手の要求を、嘘でも理不尽でも飲んでしまいます。こうして悪意を持った相手に利用されてしまうのです。
理由その3 相手はアダルトチルドレンの弱みを熟知している
アダルトチルドレン(AC)を食い物にしようと狙う相手も、実はACです。それが(B)攻撃型。ニッポン放送「テレフォン人生相談」パーソナリティーを40年以上続ける社会心理学者の加藤諦三が著書で「きずな喪失症候群」と名付けている血も涙もないタイプです。(B)攻撃型も基本的不安を抱えたACで、相手を攻撃するのは不安を払しょくするため。しかも、ホーナイによれば(B)攻撃型は、(A)追従型の服従や卑下の傾向を歓迎し、これを搾取することを好むといいます。出会ってしまったら狙われるのは間違いありません。しかも、同じ基本的不安を弱点に持つ(B)攻撃型には、ACの弱点を知り尽くしているようなもの。出会ってはいけない相手なのです。
親子(毒親とAC)をはじめ、友人、恋人、夫婦、同僚、上司・部下、教師・学生、医者・患者、サービス提供者とお客などでも起きうる関係性で、狙われたらおしまいです。
実際に起きた事件がありました。
福岡5歳児餓死事件
2021年3月、死亡した男児の母親I(追従型)と主犯A(攻撃型)が逮捕されました。容疑は、2020年4月に当時5歳だったIの三男の保護責任者遺棄致死。Aはその後、詐欺容疑でも逮捕。2022年Iは懲役5年、Aには懲役15年の実刑判決が下され、確定しています。
IとAは2016年に子どもの通う幼稚園で知り合うと、やがてAがIを支配する関係になります。さまざまな架空の話を吹き込まれたIは、Aに生活費や財産を毟りとられ、2019年にはAの指示で夫とも離婚してしまいます。完全な洗脳状態に陥り、三男の死後もAの指示がないと判断ができない状態でした。
ところが逮捕からわずか1週間で、5年間に及ぶ洗脳状態から解け、容疑を全面的に認め、自責の念に駆られるIの供述が報じられたのです。その変化の早さを疑問視する声も少なくありませんでした。Iに変化をもたらしたのは、Aから物理的な距離です。逮捕され、恐怖の対象だった支配者Aから距離を置き、やっと安全を実感できたことで、本来の自分を取り戻すことができた、と考えれば、納得できます。実際、拘留されたI自身が「あのとき(Aからの支配)に比べたら自由な気がします」と漏らしたといいます。
相手に迎合し、疑うことなく「そういうものなのだ」と信じ込み、洗脳される。母親Iには、アダルトチルドレン特有の騙されやすさが見て取れます。こうして、財産を奪われ、家族を失う不条理の中でさえ、自分を殺し、相手に服従し続けてしまうのです。
<後編>では、毒親育ちの人を餌食にしようと狙う悪意を持った相手である、ママ友Aのタイプについて観察していきます。そして悪意を持った相手から、狙われない、ターゲットにされないためにどうすればいいか考えてみましょう。
【参考】
『自己分析』
カレン・ホルネイ(1981年/誠信書房)
※40年前に出版された本書での表記は「K. ホルネイ」ですが、現在は「カレン・ホーナイ」が定訳になっています。
加藤諦三(2019年/大和書房)
[AC/毒親チェック]
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